特集 GLICC「スペシャル座談会」<2>  2017年中学入試で大輪の花を開く「新入試」とは何か?

入試問題は学校の顔
「新入試」は、アドミッションポリシーとして学校のメッセージを発信

 

本間:新入試がこれほどまでに多様であるということは、たんに生徒募集のための創意工夫ということだけではないと思いますが、いかがですか?

山下:おっしゃる通りです。それぞれ入試の内容が異なりますから、当然それぞれの試験をうける生徒像というのが違ってきますね。今までの2科4科は、やはり従来の大学入試問題を前提にしていた。

言うまでもなく、今までの大学入試問題は、知識が重視されていますから、知識をきちんと整理して記憶できる勤勉で忍耐強い生徒が典型的なモデルだったでしょう。

だから、好きなことや興味のあることでなければ集中できない生徒は、中学入試に向いていない時代もあったと思います。

ところが、それでは、好奇心旺盛で、なぜだろうと探求心を燃やす才能を持った生徒を見逃してしまう場合もあったでしょう。

そんなとき公立中高一貫校の適性検査方式が大きなトレンドになった。知識を記憶するエンジンではなく、知識を活用するスキルを重視する入試です。

何を記憶するのかより、どのように活用するのかという流れがでてきた。WhatからHowへという学びのパラダイムシフトといえると思います。これはMITメディアラボが推進した3X(explore, exchange, express)の影響を受けています。公立中高一貫校が創設したときは、まだ総合学習をベースにするカリキュラムが謳われていました。

現行学習指導要領になると、再び3R(読み・書き・そろばん)が復活しますが、ICTやグローバリゼーションの流れが、3Xを排除できなかった。それが結果的に今のアクティブラーニングで息を吹き返し、今まで以上に、公立中高一貫校の適性検査は大注目を浴びることになっています。「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」のサンプル問題も、この適性検査やOECDのPISAを参考にしていることはすぐに了解できるでしょう。

しかし、そうはいっても、適性検査は、現行学習指導要領や現状の大学入試問題を前提にせざるを得ないですから、論述問題にしても自由度はそう高くない。きちんと与えられたテキストやグラフ・表・図などの理解が前提で、そのうえで自分がどう考えるか述べるわけであり、あくまで、論理的に文章が組み立てられるかまでであり、自分の考えのオリジナリティまでは問いません。

鈴木:もしかしたら、そこが「思考力入試」や「自己アピール入試」と大きく違うところかもしれません。たしかに、適性検査の「作文」などは、自由度の高い論述式になりますが、課題文がある場合が多く、いったん要約させてから、自分はどう考えるか式の論術が多いですよね。

すると作者の考えと賛成か反対かぐらいが自分の考えで、それを支える根拠や理由も、ステレオタイプなものが多くなります。

もっとも、桜修館のような作文は、世界地図をさかさまにした図を提示して、気づいたことについて論じさせ、自分軸がある程度必要になってきます。しかし、そこから自分の探究をどこまで深められるかはあまり問題ではないような気がします。その探究については、桜修館の場合は、入学してからみっちり骨太の論文編集のアクティブラーニングがあるわけですから、入学前にその力がなくてもよいわけです。

ただ、どんなものにも好奇心を抱き、関心を開く能力資質があれば、桜修館にとっては適性があると判断されるのではないでしょうか。

そういう意味では、何に対しても好奇心を抱ける才能は、かなりのエリート的資質が求められていると思います。

GLICCでは、多様なオブジェやゲーム、アートの素材、なんといっても読書ですが、この何にでも好奇心を開くGrowth Mindsetを学びのプログラムでは大切にしていますから、桜修館の作文が、他の適性検査の作文と違うというのが、経験的に了解できるのです。

山下:なるほどそういう違いはありますね。2科4科の入試問題に耐えられる学力も、現実には必要でしょうが、一方でブレイクスルーしたときに生まれる創造的な思考が偏差値のベルカーブを突き抜けるべき数のように、雷のように、現れる才能も必要になってくる。

しかし、公立中高一貫校の役割は、天才というより、これからのリーダーシップを発揮できるエリートを育成したい。そうなってくると、そのちょうど中間というか中庸というか、そのようなバランス感覚が根底にあるのかもしれません。

本間:入試問題から人材育成論や人間の能力論まで、おもしろい話が展開していますね。小さなところから大きな世界が現れるというのは、まさに21世紀型学びのパターンの1つであるのですけれど、受験生がどんな学びをすればよいのか、ちょっと立ち止まってまとめてみましょう。今のお話から、こんな図をにわかに書いてみたのですが、これが何かのトリガーになりますか?

鈴木:あっ!本間さんらしい図ですね。つまり、オーソドックスな2科4科のテストだと、知識活用の部分は30%シェアだから、残りの知識を暗記すればできる問題70%に集中して受験勉強が行われる可能性があるということですね。

本間:いや、それは裏読みし過ぎですよ。それに、実際には、両方合わせて70%くらい正解できるようにがんばろうという指導が一般的だと思います。GLICCでもそうでしょう。

鈴木:ちょっと、違うかなと思いますね。どちらかというと、知識活用度から入ります。実は知識を活用する方法は、思考のスキルのシステムなので、こちらをマスターとすると、知識はそのスキルに糸巻のようにつながって巻き込まれていくのですよ。

山下:だから公立中高一貫校の適性検査は、そうなっているのですね。小石川中等教育学校でも、ものすごい読書をする学びがあります。しかし、この適性検査をパスしてくる生徒は、読書することに抵抗を感じません。知識も、多読によってどんどんつながっていく。しかも読書は知識のみならず、むしろ巨大な知の関心を高めるから、それが自信にもつながるということのようです。

鈴木:それは麻布も同じですね。麻布もある程度知識は必要ですが、論理的にかつ創造的に考えることが求められます。そういう意味での知識活用度をみます。知識定着度が50%、知識活用度が50%ぐらいの感覚ですから、どうしても考えることや本が好きという生徒が受験しますね。

共立女子のように「総合型入試」を行っているところは、一般の2科4科テストでは知識中心ですし、共立女子の場合は、オール選択肢問題ですから、「総合入試」によって麻布が想定するような生徒にも機会を開いたのでしょう。

北:共立女子の先生方によると、今春の「総合型入試」志願者が想定を上回り、教員総出で採点に取り組んだそうです。しかし、それでも時間がかかったというのです。ただし、それは採点がたいへんだったからではありません。

受験生が真剣に考え、教師が思っていた以上に、おもしろい角度からものを見て考えていることに、いちいち感動し、その受験生の考え方のどこがおもしろくすばらいしいのか盛り上がってしまったからだというのです。

「新入試」を実施した学校の先生方にこの話をすると、どこもそうだったのだという話で花が咲きます。「新入試」は、受験は苦しいものから、受験は知的好奇心をふくらまされる成長の大チャンスだということになるのではないかと思っているぐらいです。

本間:模擬試験会社を経営するお2人が、なぜか「新入試」に興味をもたれているのがずっと不思議だったのですが、そこが理由なのですね。すてきなモチベーションのきっかけだと感じ入りました。そして、改めて入試問題というのは、その学校のメッセージであり、入学してからのカリキュラムの質が、顕れているということがわかりました。まったくもって入試問題は、学校の顔ですね。そうすると、「思考力入試」はどうなのでしょう。「自己ピーアール入試」は、自分の興味と関心のあることを目いっぱいプレゼンできる入試だということは了解できまるのですが。

山下:実は「思考力入試」と「自己ピーアール入試」は共通の発想があるのです。本間さんの図で、奇しくも「思考力入試」の「知識活用度」のところが簡単ではあるけれども、ちゃんとフローチャートになっています。

実は、「思考力入試」は、実施校はどこでも学校説明会で「思考力入試」対策講座としてアクティブラーニングの体験ができるようになっています。「思考力セミナー」と呼ばれたりしています。

ですから、思考力入試と思考力セミナーは、両輪で、テストといえども、授業のプロセスに乗りながら考えていけるデザインになっています。

アクティブラーニングの醍醐味は、やはりWhatだけではなくHowを可視化できるところにあります。これが「思考力入試」以外にはないのです。あくまでも、体験が中心で、多くの入試問題や過去の適性検査をやってみて、躓いたところを、塾の先生方に「解き方」を教えてもらいながら、パターンを身につけていくわけです。

しかし、同じ知識活用度を上げるにしても、アクティブラーニングベースの「思考力入試」はHowにこだわります。「解き方」はあくまでこのHowによってパターン化されたもので、生みだされた成果物です。

「思考力入試」は、この成果物を生み出す「思考のスキル」としてのHowそのものを学ぶのです。すると何が起こるのか?素材が何であれ、考えていくことができるようになるのです。「自己ピーアール入試」も実は同じです。受験生が試験当日、すべて自分でプレゼンしなければなりませんが、合格する優れたプレゼンをする生徒は、この思考のスキルを体得している生徒が多いのです。

石川先生:つまり、Howに注目した時、はじめて教科横断型の学びができる。そして、だから、一教科が得意な生徒も、そのHowというあらゆるものを思考対象にする基準を有しているから、「学習の転移」が起こって、いろいろな教科も得意になっていくといいうわけですね。

山下:そうです。だから、現状2科4科の入試ではなかなか合格できなくても、入学してから「学習の転移」が起こる才能者を受け入れることは、重要だという考え方が「思考力入試」にあるのです。実際に、「思考力入試」を創り、実施してきた石川先生には釈迦に説法かもしれませんが。

石川先生:たしかにその通りです。そこまで理解されているとは驚きです。同時にやはりますます思考力入試は重要であると、我が意を得たりという感じです。