特集 GLICC「スペシャル座談会」<3>  2017年中学入試で大輪の花を開く「新入試」とは何か?

「新入試」は、自分のものの見方を変える・世界を変える。
ワクワクした知的好奇心を生み出すチャンスである。

 

本間:石川先生とは、21世紀型教育機構をベースに、「思考力入試」作成と実施、及び布教活動を行ってきましたが、作成初年度からこだわってきたことは、最初の問いだったと思います。

石川:その通りです。そして最近、同志社女子大の上田信行教授と出会って、ますます最初の問いが重要だと確信しました。上田教授は、なんといっても、学びはロックロールだという方です。

この間、「21世紀型教育関西導入記念シンポジウム」で、私もスピーチしてきましたが、上田教授を招き、レクチャーワークショップを行って頂きました。300人の聴衆といっしょにアクティブラーニングというか、上田教授流儀で言えば、プレイフルラーニングを行って頂いたわけですが、これが本当にすばらしかった。

(上田信行教授のレクチャーワークショップのリハーサルシーン。このリハーサルはシンポジウムのものであるが、同時に、子どもたちと共に未来を創るための準備であることも忘れてはいけない。)

関西の2校のカトリック校の21世紀型教育改革にかかわっているのですが、早速「思考力入試」を実施することを意思決定してよかったと思っています。

本間:いきなり、「思考力入試」をやるのですか?共立女子のような「総合型入試」を創るプロジェクトから出発して徐々に「思考力入試」にシフトするというのが、現場としてはやりやすかったのではないでしょうか。

石川:最初はそう思っていたのですが、京都大学の特色入試や東京大学の推薦入試を見て、拙著の「2020年大学入試問題」で書いていたことが、こんなに早く訪れたのかという驚きが拍車をかけました。

たとえば、「平成 28 年度 東京大学工部推薦入試 小論文課題」を見たときには、私がいつも慶応大学医学部の問題を例に、語っていたことがそのまま目の前に出現したという想いでした。

≪以下の設問を読み 、小論文解答用紙に解答しなさい。 (600 ~800 字)

あなた がこれまでに見聞した中で、科学技術が真に人類を豊かあるいは人類を救ったとあなた自身が感動した事例を一つ取り上げ、その事例についてそう感じた理由とともに説明し なさい。また 、その基となる学理または技術について 、その事例にどのように関わっているか述べなさい。さらに 、その事例 に伴う負の側面をどのように克服できるか 、論じなさい。≫

という問題です。ここには、山下さんがおっしゃるように、Whatが問われた後にきちんとHowが問われている。そして3つ目に、クリティカルシンキングを発動し、創造的問題解決をせよとなっている。しかも、全体を通して「自分軸」も要求されている。

鈴木:まさに「思考力入試」そのものですね。しかし、これが最初の問いかけとどう関係するのですか?

石川:そうでした。この問題を考える生徒は、相当柔らかい思考や感性をもっていないと、「あなた自身が感動し事例を一つ取り上げ、その事例についてそう感じた理由とともに説明し なさい」という問いに対し、頭が回転しないと思いませんか。

山下さんが先ほど語っていた、客観的な知の枠に収まっていたのでは考える糸口を見いだせないでしょう。

山下:そうなんです。客観と主観という二項対立こそ、20世紀型教育の行きついたところですね。これによって主観を排除する。バブルがはじける頃までは、左脳が右脳よりも重視されてきた。誰もが共有できると思い込んでいる知識が重要で、主観的な感じ方など学力に関係ないと思われてきた。

しかし、今の脳科学は違いますね。21世紀型教育は、20世紀の多様な固定観念の枠を超える可能性に挑戦しています。

石川:その通り。上田教授のワークショップでもわかるように、学びはあらゆる枠から解放され、発想の自由人として探究活動に旅立てるワクワクしたものであるというのが21世紀型教育の目標です。

(新入試もまた、多くの受験生に、まだまだやれるという精神のスイッチを入れる挑戦である。)

客観と主観のインターフェースこそが重要なのです。知識はしょせん思考過程がスルメになったものです。主観は思考のナマの過程です。知識に息吹を注ぎ、知識に息吹を取り戻す。それで、はじめて知識を活用するということができるのです。それには、柔らかいものの見方が必要です。

北:それで、「思考力入試」を行うところは、レゴやマインドマップ、写真を使って、自分のイメージとまわりの受験生のイメージを比べて、いろいろな見方があることを実感させることから始めるのですね。

石川:最近、グーグルでは、創造的精神を養うのに、マインドフルネスプログラムを行っているそうですが、かつてのようにレゴとかマインドマップではなく、「ZEN」を導入しているらしいのです。右手をあげて、目を閉じて瞑想し、いったん自分を忘れる。そして目を開ける。すると、その右手は今までの自分の右手ではなく見えてくる。自己からの解放。枠からの解放。発想の自由人としての新しい自分がそこに現れる。

そんな話がWhatとして本当かどうかはともかく、Howとしては、自分を変える、ものの見方を変えるというスキルの大切さが、ここにはあると思います。

学びとは、知識を憶える作業ではなく、自分を変え、世界を変える新しい自分を見出す旅なのではないのでしょうか。主観と客観はもはや対立構造ではありません。共に変わりゆくものです。

北:もし石川先生のおっしゃる通りだとすると、中学入試とか大学入試は、かつてのような受験地獄などのメタファーでかたることができなくなる時代がやってきたということですね。

鈴木:子どもたちが直面するコトは、すべて人生の道を進めるゲートです。その向こうに何があるのかワクワクしつつも、不安と恐怖はあるでしょう。でも、柔らかい思考力で、見方を変え、世界を変え、生き抜いていける。そしてアクティブラーニングに象徴されるように、協働して支え合いながら前に進んでいく。ゲートの向こうに道がなければ、創っていけばよいわけです。

山下:Growth Mindsetですね。今までは、他者が造ってくれたたゲートのこちら側の道で、競争をしていればよかったのですが、いよいよゲートの向こうに旅しなければならなくなったということでしょう。そのゲートを前に、怯えている人とワクワクしている人の両方がいるのは当然ですね。しかし、イノベーションの時代、クリエイティブクラスの時代、第4次産業革命の時代は、未来を創るチャンスを求めてゲートを潜り抜けざるを得ないということでしょう。

本間:子どもたちと共に未来を創ることに備える学びとして、この多様な「新入試」の存在理由があるということが了解できました。不安がないと言えば、嘘になりますが、希望を抱きながら、旅をしていく準備を多くの私立中高一貫校がしているという事実に、受験生は大いに勇気をもらえるでしょう。

ぜひこのチャンスを生かして欲しいとですね。11月3日、和洋九段女子中高で行われる「新入試体験!私立中コラボフェスタ」(http://www.syutoken-mosi.co.jp/1103mousikomi.php)にも参加して頂きたいと思います。今日は長時間ありがとうございました。