毎週末、スカイプでIB Japaneseの自学をしている生徒のサポートを行っています。
オンラインで直接指導するのは、生徒との対話を通して新しい発見があるからです。単に講義を録画して配信したり、文学技法などの知識を与えるのは、私にも生徒にも面白くないだろうと思うのです。文学の技法は”Literary Device”で検索すればいくらでも出てきます。そのページをGoogle翻訳を使って日本語に直せば、完璧ではないにせよ、何を言っているのかおおよそ見当はつきます。
ですから、修辞や表現技法を覚える必要はありませんし、そういうことに限られた授業の時間を使わないようにしています。楽しいのは、生徒自身が独自に考えた解釈を元に対話をすることです。最初は不完全で構いません。場合によっては明らかに変な解釈ですらよいと思っています。
先日は、Part 1の翻訳作品で、ディケンズの『大いなる遺産』を選択した生徒とのやり取りする中で「Aha! moment」がありました。冒頭のエピソードがこの長編小説の大きなプロットの骨格となっているのですが、それがタイトルにも反映されているのではないかという考えに発展しました。ここまでは、まあよくある分析です。「遺産」は主人公ピップにとっての大きな成功をもたらす贈り物であったのだね、以上終わりというところです。面白かったのは、そこでオリジナルのタイトルに話が及んだ時です。”Great Expectations”が原題で、expectationsには複数形で遺産という意味が確かにありますが、なぜ"heritage"とか"legacy"ではなく、"expectations"なのだろうかと疑問を持った際に、これはお金のことだけではないね、とアハ体験につながったのです。おそらく英文学でディケンズを専攻している人には当たり前の解釈なのかもしれませんが、このような気づきが次の検索の鍵となって解釈が深まっていきます。
また別の生徒は、Part4の作品の比較分析で面白い解釈をしてくれました。「竹取物語」と「キッチン」の比較を行いました。2作品の比較となると、同種のテーマが扱われている作品を選ぼうとする生徒がよくいるのですが、最初からテーマが似ていると解釈も凡庸なものに落ち着いてしまいます。ですから、作品選択ではあえて関連性が見えないような作品を「生徒の興味のまま」に選ばせることがあります。上記2作品もそのような例です。時代的にもストーリー的にも似ても似つかないと思われますが、これをジェンダーという切り口で見事に解釈してくるような生徒と対話すると本当に楽しい授業となります。
文学も捨てたもんじゃないと思うのですが、国内受験にはあまり役立たないでしょうから、今のところ海外の生徒とだけこういう授業を行っています。