国際バカロレアDPの5月最終試験が近づき、海外からオンラインで受講している教え子たちもだいぶ「本気」になってきました。6科目の詰めが一気に押し寄せてきますから、ここからがいよいよ正念場です。ディプロマ取得に向けてあと2ヶ月あまり頑張ってください。
さて、この記事ではJapanese A: Literatureをself taught(自学)で進めている生徒に留意しておいて欲しいことを書いておきます。日本の「国語」で文学を学習するのとは異なる部分ですから、日本における文学教育にもヒントになるかもしれません。
留意しておいて欲しいこととは、リフレクションの重要性です。2018年度最終試験に向けてきちんと段階を経てきた人はPart1の学習でReflective Statement(振り返りの記述)を書いたことを覚えているでしょう。この「振り返りの記述」は、Part 1で最終的に提出することになる、3000字のエッセイに比べて評価の比重が低く、字数も800字と短いので、感想文のようなものを書けばよいのでは?といった程度に考えている人が少なからずいます。
How was your understanding of cultural and contextual considerations of the work developed through the interactive oral?
しかし、指示文を読めば明らかなように、「developed」した軌跡(読みが深まった過程)を書くものが「振り返りの記述」で問われていることです。逆に言えば、最初から深い読みができていたことを披露する必要はありません。ちなみに「the interactive oral」とは、クラスメートと行う、作品についての対話を指していますが、self taughtの生徒はクラスメートがいないので、代わりに「 journal writing(文学日誌)」を通して気づいたことを書くことになります。ここで大切な事は、対話であれ文学日誌であれ、気づき=変化を書くのであって、ひとまず分析の的確さを競っている訳ではないという点です。
気づきは多くの場合、クラスメートであったり別の人が書いた資料など「他者」によってもたらされます。文学日誌は自分一人で書くものだから、他者の目などは入らないのではないかと考える人もいるかもしれませんが、文学日誌は次のような質問に応えて書くように指示が出されており、実はこの「問い」も他者の視点(=分析視点)を提供するものとして機能しています。
• In what ways do time and place matter to this work?
• What was easy to understand and what was difficult in relation to social and cultural context and issues?
• What connections did you find between issues in the work and your own culture(s) and experience?
• What aspects of technique are interesting in the work?
いずれもオープンエンドな問いであり、「傍線部の時の主人公の心情を考えなさい」といった問いとは質が異なることに気づきます。
時代や場所、文化といった作品外のコンテクストを参照させる点、あるいは、自身の経験や感覚などの個人的な要素を問いに組み入れている点などもリフレクションするのに適した問いであると言えるでしょう。
つまり、日本の国語教育では、テストによる評価が前提となるために、問いも正解を想定して作品そのものの細部分析に向かっていくのに対して、IBのJapanese A(Language A)では、問いが探究への入り口となっています。
「理解しやすかったところ、理解しづらかったところはどこか」などといった「問い」によって、生徒は、なぜ難しいと感じたのか、理解しやすいと思えたのはどうしてかなどと、作品内にとどまらず作品外のコンテクストへと誘われるのです。時代背景や文化の違いにも目を向けることで、最初は気づかなかったことに気づいていくことが「リフレクション」のプロセスです。
そのように見ていくと、パート1からパート4まで全ての課題にpromptと呼ばれるものや質問があったはずです。この質問をしっかり読んで、それに答えていくことが読みを深めます。「自分の書きたい主題」をいったん脇において、問われていることに答えるようにじっくりと考えてみてください。回り道のようですが、実はそこから着想が得られるということがよくあるのです。
「問い」に関連してもう一つ付け加えておくと、IB Japaneseで出てくる問いは、作品固有の問いではないということにも注意しておいてください。つまり、「この時のジョバンニの気持ちはどうだったか」とか「竹蔵の心情の変化についてまとめなさい」などという問いはありません。
What is the impact on the work of a major choice and/or decision made by characters?
In what ways are the voices of history and tradition present in the work?
登場人物がどんな選択や決定をしたか、あるいは、歴史的・伝統的なものの見方が作品内にどのように表れているかといった観点は、どんな文学作品を分析する上でも共通して考える視座を提供してくれます。したがって、Part1からの問いを振り返っておけば、Part 3の最終試験に対しても非常に有効な対策となるのです。逆に言えば、リフレクションを誘発する問いというのは、様々な局面に適用可能な、一般化されたものであるということが言えるのかもしれません。
リフレクションと問いの関係を考える必要があるという事が、私が指導を通して気づいたことです。これも生徒という他者があってこその産物だと思います。