東京大学の2019年外国学校卒業学生特別選考で文科1類に合格した韓国の学生ジョン君がGLICCに遊びに来てくれました。
この学生がGLICCの日本語小論文のオンラインコースを受講したのは、受験直前の2カ月間ほどでしたが、母語ではない日本語を駆使して高度で論理的な内容を対話・論述する力には驚かされました。
東京大学の外国学校卒業学生特別選考には1種と2種があり、帰国生は2種、留学生は1種で出願します。出題される小論文はどちらも同じもので、2019年度の問題は次の通りです。
市民の裁判への参加について、これを認める国を複数挙げて、相互に比較しながら、論じなさい。なお、あなたが暮らしたことのある日本以外の国が、市民の裁判への参加を認めているのであれば、それについても言及すること。
B 日本語で解答する問題 (実際の問題では別紙に資料が掲載されている)
1) 政府への信頼が国によって異なるのはなぜですか。二つ以上の要因を挙げて論じて下さい。それらの要因のうち、どれがもっとも重要だと思うかをその理由とともに論じて下さい。
2) 政府への信頼の水準が同じ国の中でも変化するのはなぜですか。二つ以上の要因を挙げて論じて下さい。それらの要因のうち、どれがもっとも重要だと思うかをその理由とともに論じて下さい。
帰国生の場合は、Bの方を英語(もしくは選択した言語)で解答することになりますが、留学生の場合は両方とも日本語で解答することになります。ジョンくんにはA・Bともに再現答案を書いてもらったので、GLICC受講生で希望する人にはその答案をお見せします。解答を作成する力はただ書き方に習熟することによるのではなく、着眼や発想を含む高次の思考力が必要であることがよくわかるはずです。また、綿密な振り返りをメモとして残してくれているので、ジョン君の学習習慣や思考スキルが垣間見え、参考になります。
そのメモの一部をご紹介しましょう。
(市民が裁判に参加する国の例としてアメリカを挙げた後の部分で)
(判決内容についての意見対立が深化した場合の例としてドレフュス事件を挙げた後の部分で)
答案をただ書くだけではなく、振り返りを書き込んでおくことは、ふだんの小論文の学習においてもとても大切なことです。それを一人でできる生徒はそうはたくさんいません。小論文が一人で勉強しづらいというのは、そういう理由によるのです。自分の書いたものを時間をおいてから再度クリティカルに読み直すことができれば、それだけで小論文の対策は出来上がったといっても過言ではないほどです。
ジョン君になぜ日本の大学、そして東大を目指したのか聞いてみると、即座に返ってきた答えが「日本は韓国の未来だから」というものでした。昨今の日韓関係については、「政治は政治。国民の感情は、報道されているものとは違う」ときっぱり。
ちなみにジョン君はイギリスの高校を卒業しており、英語もTOEFL114を取得しています。3か国語をものにし、東京大学法学部(たぶん文1の後は法学部に進学するでしょう)を卒業した後に何を目指すのか尋ねてみると、「国家という枠組みが政治でも経済でも限界に来ている。自分はそういう枠組みがなくなった後の世界でどう生きるかに興味を持っているんです」とのこと。儲かるかどうかではなく、未来を感じるために仮想通貨も購入しているそうです。
話をしていて私も刺激をもらいました。こういう生徒を指導していると、受験指導も捨てたものではないなと感じるのです。