1. はじめに:先の見えない時代に、「正解のない問い」を生き抜く力を
偏差値という単一のものさしで子どもの価値を測り、決められた正解を効率よく導き出すことに心血を注ぐ——。そうした旧来型の日本の教育が、急速に変化する現代社会の中で限界を迎えていることは、多くの保護者の方が肌で感じておられるのではないでしょうか。いま求められているのは、自ら課題を見つけ、しなやかに解決していく「非認知能力」や、自分で学びを設計する「自己主導型学習(Self-Directed Learning)」の力です。
茨城県つくば市にある茗渓学園中学校高等学校は、1979年の創立当初から、筑波大学(旧・東京教育大学)ゆかりの「教育実験校」として、日本の教育のあり方を問い直し続けてきました。その実験精神を象徴するのが、独自の「複数担任制(チーム・ティーチング)」です。たとえば2クラスを3人の教員で担当するこの仕組みは、クラスが特定の教員の色に染まることを防ぎ、生徒一人ひとりの個性を多角的に引き出すための工夫です。この「実験」の系譜が、2027年、新たな段階へと進みます。
2. 2027年、ケンブリッジ・インターナショナル始動——「世界基準の試験慣れ」がIB成功の鍵
茗渓学園は2027年4月から、新たに「ケンブリッジ・インターナショナル・クラス」を中学1年生からスタートさせます。中学段階でケンブリッジ国際教育プログラム(Lower Secondary)を導入し、2029年(中学3年〜高校1年)には、世界で最も普及している14〜16歳向けの国際資格「IGCSE」の取得を目指します。
注目すべきは、すでに国際バカロレア(IB)で確かな実績をもつ同校が、IBの中等教育プログラム(MYP)ではなくケンブリッジを選んだ理由です。MYPには最終的な外部評価試験がありませんが、IGCSEでは世界標準の厳格な試験を経験することができます。タフなことで知られる大学入学資格試験IBDP(ディプロマ・プログラム)に挑む前に、世界基準の試験を一度くぐらせておくことで、学習の連続性と確実性を担保しようという戦略です。
コースディレクターの清澤先生は、その意図をこう語ります。
「IGCSEは世界に広く認められた資格です。高校1年生の段階で、国際カリキュラムに基づいた外部試験を一度経験しておくことは、後のIBDPへの大きなアドバンテージになります。結果そのもの以上に、世界標準の評価にさらされる『試験慣れ』が、彼らの自信につながるのです」
3. 「17歳の卒論」——偏差値を超えた「問い」が、難関大学への道を開く
茗渓学園の教育の真髄は、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)活動の柱である「個人課題研究」に凝縮されています。高校2年生(IBコース以外)の全員が取り組むこの活動は、通称「17歳の卒論」と呼ばれています。
金曜日の午後をまるごとこの研究に充て、教員全員が指導にあたるという徹底ぶりです。ここで求められるのは、与えられた課題に答えることではなく、自分自身で「リサーチクエスチョン(問い)」を立てる力。教員たちは安易に答えを示さず、生徒が自ら道を見つけ出すまで待つ「さじ加減」のプロフェッショナルとして、その背中を支えます。
この探究の経験は、進路実績にも直結しています。卒業生のおよそ4割強が、この研究実績を携えて総合型選抜や学校推薦型選抜で国内外の難関大学に合格。偏差値による序列ではなく、「大学で何を研究したいのか」という明確なストーリーを語れる生徒が、大学側から強く求められているのです。
4. 留学生が日本語で東大文一にトップ合格——多様性が生む刺激
茗渓学園の多様性は、「帰国生が多い」という言葉だけでは捉えきれません。全校生徒の20%以上が帰国生や留学生で、日常的に異なる価値観が交わり、融合しています。
それを象徴するのが、ある留学生の東大合格のエピソードです。その生徒は、第二言語である日本語で共通テストと二次試験という、日本で最も過酷とされる一般入試に挑み、多くの日本人受験生を抑えて東京大学文科一類に最高得点で合格するという快挙を成し遂げました。
世界トップクラスの意欲をもつ仲間が隣の席に座っている——そうした環境そのものが、周囲の生徒にとって「自分はなぜ学ぶのか」を問い直す、最高の刺激となっているのです。
5. 日本語でIBディプロマ?——「英語の壁」を超えて挑戦できる独自プログラム
「IBは英語がネイティブ並みでなければ無理」という固定観念を、茗渓学園は打ち破っています。同校では、最大4科目まで日本語で受講可能な「日本語DP」という選択肢を用意しています。
- 柔軟な受講体系: 最低2科目は英語で受講するというルールのもと、言語の壁によってIBの高度な探究学習をあきらめさせない体制を整えています。
- 本人の意志がすべて: ただし、学校が問うのは「英語スキル」ではなく「覚悟」です。
清澤先生は、保護者に対してあえて率直な言葉を投げかけます。
「保護者の方が乗り気になって、お子さんをIBに行かせることだけは避けてください。いちばん大切なのは、本人が最後までやり抜く意志をもっているかどうかです」
6. 全員ラグビー、全員剣道——パブリックスクール流の全人教育
知力だけでなく、強靱な精神と肉体を養う。茗渓学園はイギリスのパブリックスクールをモデルに、独自の体育科目「校技(こうぎ)」を必修としています。
週3回の体育のうち、男子はラグビー、女子は剣道に必ず取り組みます。「スポーツだけ、勉強だけの人を育てない」という理念のもと、IBで学ぶ生徒も、全国レベルの部活動に励む生徒も、全員がグラウンドで泥にまみれ、道場で礼を学ぶのです。この心身の鍛錬こそが、先の見えない時代を生き抜く「しなやかな強さ」の源になっています。
7. 世界とつながるボーディングスクール——つくばの地が育む共生関係
約340名が生活する大規模な寮(ボーディングスクール)は、単なる宿泊施設ではなく、24時間が学びの場です。
- 教室まで徒歩3分: 通学時間をすべて探究や睡眠に充てられる、圧倒的な環境。
- 筑波大生による伴走: 夜間には近隣の筑波大学の学生が寮を訪れ、個別学習をサポート。学校がハイエースを出して大学生を送迎するほど、地域との結びつきは強固です。
- 校長も共に暮らす: 歴代の校長が寮に住み込む伝統があり、現校長も生徒と同じ屋根の下で日々の様子を見守っています。
- 国際的なコミュニティ: 週末のバーベキュー大会には、寮生とその家族が世界中から数百人集まり、国際色豊かな「もうひとつの家族」のような絆を育んでいます。
8. おわりに:自分の人生のストーリーを描くために
茗渓学園が目指しているのは、大学合格という名の「ゴール」テープを切らせることではありません。その先にある長い人生を、自ら問いを立て、生涯にわたって学び続ける「ラーナー(学習者)」を育てることです。
つくばの広大なキャンパスで、泥にまみれ、論文に悩み、多様な仲間と議論を尽くした経験は、いつか彼らが世界のどこに立つことになっても、自分を支える確かな背骨となるはずです。
最後に、保護者の皆さまに問いかけたいと思います。
お子さんはいま、ただ「テストの点数を取ること」に終始してはいないでしょうか。それとも、自分自身の人生のストーリーを語れる大人になる準備が、すでに始まっているでしょうか。