東大帰国生入試の小論文―グローバルアドミッションの時代⑤

2021年の東大の帰国生入試の小論文問題が東大のホームページで公開されています。

東大の帰国生入試は、正式には「外国学校卒業学生特別選考 第2種」という名称で呼ばれていて、私費留学生対象の第1種と基本的には同じ問題が課されます。二つの違いは、まずは出願資格で、大雑把に言えば国籍によりどちらの入試を受験することになるかが決まります。そして筆記試験の違いとしては、課される小論文の言語です。片方の日本語小論文は1種2種ともに日本語で解答する問題ですが、もう一つの小論文は、第1種の受験生は日本語で解答、第2種の受験生は出願時に選択した言語で解答することになっています。

2021年の文科1類の問題を見てみましょう。

A(日本語で解答する問題)

「悪法も法」という法格言がある。あなたが暮らしたことがある日本以外の国での体験や観察も踏まえ、具体例を挙げ、あなたの考えを反対論も考慮しつつ述べなさい。

B(出願時に選択した日本語以外の言語で解答する問題)←1種の受験生は日本語で解答する問題

 A 国では、X 党が総選挙で議会の3 分の2 以上の議席を獲得し、政権を奪取することに成功した。同政権は、政府に対する抵抗勢力の牙城たる憲法裁判所に対する攻勢を強め、憲法裁判所の裁判官の定年を立法により引き下げることにより、「人事の刷新」を図った。
 この立法は、「司法権の独立」に対する侵害であるとして国際的な非難を浴びたが、 A 国は、政権の民主的正統性を強調するとともに、そもそも西欧的な「司法権の独立」なる原理は、司法権に対する国民の信頼が低い自国の「国情」に合わないと反論している。A 国政権の主張に対するあなたの賛否をまず明らかにして、この主張を論評しなさい。

Aは、法学部では定番とされている問題です。「日本以外の国での体験や観察も踏まえ」という点に留意しておけば、すでに対策しているはずのトピックであり、落ち着いて解答できたのではないでしょうか。
Bは、2020年にツイッターの投稿を引き起こした検察庁法改正案のことが想起される出題になっています。細かな条件が問題文に盛り込まれていますが、要は三権分立について触れながら、民主主義の基本を押さえておくことでしょう。問題は、これを帰国生であれば外国語で、留学生であれば日本語で解答する必要があるという点です。細かな条件に目を向けすぎると、語彙の面でも書くのが難しくなりそうですから、あくまでも民主主義の基本を書くことに徹するのがよいでしょう。そのための語彙は当然仕込んでおく必要があります。

ところで、1種の留学生と2種の帰国生の入学者数は、2011年まではずっと第2種(帰国生)が、第1種(留学生)よりも多かったのですが、2012年以降は、基本的に数が逆転しています。2021年では第1種26名に対して、第2種は15名。文1でもついに、5人対4人と、記録を確認できるこの18年で初めて第1種の合格者が第2種を上回りました。
 
コロナの感染拡大で、アジアの優秀な留学生が欧米よりも日本を選んだということが背景にあるのかもしれませんが、日本の官僚エリートへのルートである文科1類に留学生の入学者が増えているというのは、注目しておくべきことだと思います。ちなみに理科1類と2類ではこの10年ずっと留学生の入学者数が帰国生の入学者数を上回っています。