21世紀型理数教育のあり方とは

 理数教育がメディアに取り上げられることは、英語教育などに比べると少ないようです。それは日本の理数教育が国際的に見て比較的優位にあると思われているからかもしれません。日本人は科学の分野からノーベル賞を毎年出しているし、そういう意味ではうまくいっているのではないかといった感じでしょうか。しかし、今年ノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典教授は日本の現状に警鐘を鳴らしていると朝日新聞が報じています。

大隅さんはこれまでの研究を振り返りながら、「日本の大学の基礎体力が低下しているのは深刻な問題」と指摘。研究費の多くが競争的資金になると長期的な研究が困難になるとし、今後、新しい研究分野で日本人がノーベル賞を受賞するのは「非常に難しくなっているのではないかと危惧している」と述べた。 (朝日新聞デジタル 2016年10月7日より)

「基礎体力が低下している」のは、研究費など財政面もあるでしょうが、研究者の層の厚さや研究への姿勢なども含まれていると考えられるのではないでしょうか。つまり、短期的成果に向かうというのは、専門領域以外に対する幅広い関心が薄れていることの表れと言ってもよいかもしれません。

 そういう意味での危惧は日本学術会議などでも話が出ていて、今年2月に出された提言によれば、高校理科の4分野(物理・化学・生物・地学)を統合した「基礎理科(仮称)」の設置なども検討しているようです。現状では大学センター試験受験のために、理系進学者であっても2科目選択すればよいわけですが、これを文系も含めて全員が「基礎理科」を履修するという内容などが示されています。

 こういった動きの背景にあるのは、科学技術の発展により誰もが科学技術と関わりを持たざるを得ない社会になっているという状況です。数年前にアメリカではオバマ大統領が大きな予算をSTEM教育に投じました。STEM教育というのは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を統合した教育のことで、科学技術系の仕事が将来不足することを予測した動きです。STEM関連の仕事の不足は、特にコンピューター関連で大きく、工学系技術者がそれに続きます。プログラミング教育などが盛んになっているのもここに大きく関係しているわけです。

 さて、日本の理数教育ですが、これからの社会に備えたものになっているのかどうか、そこから見直してみる必要がありそうです。大学や大学院での研究レベルにも課題は多くあるでしょうが、むしろ、中学・高校段階で、科学技術全般に対する興味を育むような理数教育のあり方がもっと論じられるべきではないでしょうか。