特集 GLICC「スペシャル座談会」<1> 2017年中学入試で大輪の花を開く「新入試」とは何か?

2017年度中学入試は、2020年大学入試問題を先取りする新中学入試続々!

新入試問題体験で、2020年大学入試改革に備える私立中高一貫校を実感できる!

2030年社会は、第4次産業革命時代、インダストリー4.0時代、クリエイティブクラスの時代などと呼ばれ、今の世の中の産業構造はがらりと変わっています。ちょうど、現在の小学校高学年の生徒から高校生までの生徒が、大学を卒業して社会で活躍し始めている時代がマインドセットされているわけです。

したがって、2020年、日本政府も、新しい産業と大学が上手く接続できるように、そしてそのシステム改革を行う大学に、初等中等教育がうまく接続できるように、大学入試改革や学習指導要領の改訂作業に入っている最中です。

この第4次産業革命では、さかんにメディアがとらえているように、人間の知識や記憶、論理的思考ぐらいまでは、人工知能(AI)が人知を超えるハイスピードでこなしてくれます。これまで、国や大企業が膨大な費用をかけていた事務仕事や管理業務は、AIが楽々こなしてくれるようになります。

憲法に基づく、さまざまなルールも、矛盾なく合理的に作成し、それを活用して判決まで出す自動裁判官装置(これは啓蒙期には理想とされていました)ができてしまいます。日々混迷を極めている行政対応も同様です。

三権分立の国の体制はいったいどうなってしまうのでしょうか。それを考える主役は、いまここにいる生徒たちなのです。

医療分野もそうです。すでにAIがクライアントの症状を様々な角度から認知すし、症例パターンをぴたりと適合できるようになってきました。問診、症状、血液検査、脳神経系物質の分析はあっという間です。

科学の分野は格段と進化し、いったい人類の知恵はどのように発展すればよいのでしょうか。それを考え、新しい未来を創っていくのはいまここにいる生徒の皆さんです。

そう、「未来を創る」ということが生徒と私たちが共有している大きな課題なのです。私たちは、生徒と共に「未来を創る」ために最も必要なアイテムを継承しなくてはなりません。一体それは何か?昨今、これからの世界は、解答が1つではない世界になるといわれていますが、それは未来の話ではなく、いまここですでに起こっています。「未来を創るために最も重要なアイテムとは何か?」というプロブレムは、私たち自身にも投げかけられているのです。

2011年3月11日以来、成長神話、安心安全神話が崩れたときを境に、私立中高一貫校は、この問いを自らに課し、真剣に考え、最重要アイテムの開発を模索してきました。その一つの成果が、新しい入試問題の開発でした。

私立中高一貫校のこの息吹は、当然世界の心ある教育関係者と共感しています。なぜなら、この2030年問題は、世界共通の問題だからです。ですから、グローバル教育やICT教育が21世紀型スキルとして世界各国に注目され教育に導入されているのです。

しかし、さらに最重要なのは、世界的には、伝統的なリベラルアーツ(文系理系を区別しない幅広い教養)への回帰が起こっているということです。たとえば医学教育において、最も重要なのは、クライアントとのコミュニケーションや共感力であり、それは人文科学(arts and humanities)の成果が土台になります。

これを受けて、教科横断的な思考スキルや学際的な視点、多様な専門知の協働性などが大学のみならず初等中等教育の学びの現場でも求められるようになりました。そして、このような場こそアクティブラーニングなのです。実はAIの学び方にも、この学び方が応用されています。もし人間がこのアクティブラーニングのシステムを顧みず、旧来の教育を続けるとしたら、大変なことになるのは火を見るより明らかでしょう。

私たちは、このような歴史的重大局面に立っており、中学入試もその例外ではありません。それゆえ、多様な新入試問題が百科繚乱のごとく開花したのです。

そこで、このような大きな中学入試の流れをキャッチしあるいは最適化をプロデュースしているともいえる北一成氏(首都圏模試センター取締役・教務情報部長)、山下一氏(首都圏模試センター取締役・統括マネージャー)の両氏と実際に現場で新しい入試問題を開発し実施している石川一郎先生(香里ヌヴェール学院学院長、前かえつ有明校長)、そして新しい学びのプラットフォームを創出しているGLICC代表鈴木裕之氏がここGLICCに集結しスペシャル座談会を実施するにいたりました。(コーディネーター:本間勇人 私立学校研究家)

本間:以上のように社会や教育は大きな局面を迎えています。私立中高一貫教育は、ある意味、公立中高一貫教育やSGH(スーパーグローバルハイスクール)、公立高校の進学重点政策など教育行政のモデルにいつもなってきました。今回の多様な新しい入試の開花も、今後、目の前の話しとしては、2020年大学入試改革の問題に影響すると思われます。まずどのようなスタイルの入試問題が花開いているのか、またどのくらいの規模で行われようとしているのでしょうか。

北(敬称略):2013年頃までの中学入試改革というと、複数回入試にするかどうか、その入試日程をどのように設定するか、午後入試をどのくらい実施するのか、2科4科の選択をどうするのかなど、入試の内容というより手続き的な創意工夫が主流でした。

しかし、2013年頃から適性検査型入試と思考力入試など入試の内容のイノベーションが起こりました。この時点では、この新しい動きに対する受験生の反応は約1,000名でしたが、2013年秋から2020年大学入試改革の話題が出始めるや、2014年に約2,000名、2015年には約3,000名と増加し、今春2016年入試の志願者は、何と「7,000名以上」まで急増し、今春入試の「中学受験生の増加」の一端を担う存在となりました。

そして、2014年には、大学入試改革の一環として、そして前倒しとして、4技能英語の問題が立ち上がりました。はやくも2015年からは、多くの私大でTOEFLやTEAPなど外部英語資格試験のスコアを英語の入試の代替として活用し始めたのを機に、中学入試でも「英語入試」が注目を集めました。2015年元旦朝日新聞の一面に、中学受験における英語入試も話題にあがっていたのは記憶に新しいところです。

適性検査型入試は、2月3日の公立中高一貫校を受検する生徒に私立学校も機会を開きました。同じ中高一貫校入学準備でも、私立中高一貫校の受験準備と公立中高一貫校の受検準備とでは違いがあり、その両方を行うことがいろいろな事情で困難な場合も多いからです。

公立中高一貫校の適性検査では、複数の資料を読み取り、必要な情報を収集し整理できる力や、自分の経験や身に付けている知識を活用できる力。また、事象を数理的に分析し適切な方法で調査できる力や、課題解決のために論理的に思考を進め、適切な判断を下せる力。さらには、自分の考えを分かりやすく表現できる力。このような力が試されます。

ですから、知識については、記憶していなくても、資料やグラフや図表などから情報を取り出すという思考スキルを学んでおけばよいので、私立中高一貫校のように大量の知識をきちんと整理して記憶し、そこから自在に引き出すトレーニングは必要がないのです。

したがって、公立中高一貫校向けの準備だけをした場合、私立学校の2科4課の入試はなかなかチャレンジしにくいという問題があったのです。
ところが、たとえば、公立中高一貫校を今春2016年に受検した小学生は、およそ1万8,000名。しかし、公立中高一貫校の募集定員は各校とも男女で80~120名(最多でも160名)と少ないため、このうち合格者はわずか2,930名という結果になっています。

このままでは、およそ15,000人の生徒は、公立中学に進むことになります。いわゆるリベンジということなのですが、昨今都立高校にみられるように、日比谷など公立の復権の象徴になっているような高校はよいのでしょうが、そうでない場合、公立高校の現状というのは、学力面や成長サポート面であまりに格差がありすぎることが社会問題になっています。

ですから、公立中高一貫校に進めなかった場合、私立中高一貫校に進みたいという価値観が生まれてきたわけです。それが先ほど述べた「適性検査型入試」や「思考力入試」の志願者増につながっているのだと思います。

山下:この新しい入試の今までの2科4科と決定的に違うところは、“Who are you ?”つまり、もしあなたならどうするのか?あなたはどう生きたいのか?あなたはどう考えるのか?など「自分軸」を問いかけてくるところです。

2科4科入試は、客観的な知を全面的に問いかけてきたし、これからもその役割は重要ですが、新しい入試はその客観的な知をあなたならどう活用するのか主観的な考え方をといかけてくるものも含まれています。

おそらく1995年あたりから、入試における面接が廃止される傾向が続き、客観的な学力のみが優先してしまったという経緯があったと思います。かつては、その知識を大量に記憶し、自在に引き出し活用できれば、安定した社会の中で有利なポジションに立つことができたのですが、21世紀に入って、グローバリゼーションが本格化すると、激変する社会の中で、新しい知識がどんどん生まれ、どの知識を取捨選択して活用していくか自分で判断せざるを得ない時代がやってきてしまいました。

そんなとき、自分軸を基準に選ぶのですが、その軸はいつ形成されるのか?中高に入ってからなのか?もちろん、一生かかってもなかなか見つけることができません。しかし、「自分軸」を意識できる学びは必要です。

ですから、それはいよいよ中学入試においても必要とされる時代がやってきたということでしょう。あとで論じることができればと思っていますが、客観的な学力と自分の感覚や考え方をどのように関係づけるのか?その両方の相乗効果が求められている教育の時代が到来したのです。

北:その通りです。ですから、その「自分軸」そのものをズバリ問いかけようという新しい入試も今春開花ました。自己アピール入試などがそれですね。そして、この流れは留まることを知らず、来春2017年度中学入試で、一気に花開きます。【思考力入試】【適性検査型入試】【総合型入試】【英語入試】【自己アピール入試】というラインナップが勢ぞろいになるでしょう。

この動きについて、11月3日14時20分から、和洋九段女子中高で、説明&体験イベントを開催します。「新入試体験!私立中コラボフェスタ」(http://www.syutoken-mosi.co.jp/1103mousikomi.php)がそれです。論より証拠、まずは体験してみて欲しいですし、新入試の動向を丸ごと知る機会にしてもらえれば幸いです。