高木チューターのIB生活 ~スウェーデンのIB校より~ 第2回

第1回目に引き続き、スウェーデンで体験したIB生活を紹介していきます。学校に行った初日に驚いた点がたくさんあったように、その後授業を受けているときも日本の教育とはずいぶん違うなと思う点がありました。今回はその授業にフォーカスします。(このコンテンツを見るにはユーザー登録(無料)が必要です)

IBでは授業を6つの科目群の中からそれぞれの科目を自分で選びます。ただし芸術科目群は必修ではないため、他の必修科目群の中から2科目選択することも可能です。学校によっては選べる科目が違う場合もあるのでその点はよく調べてからをお勧めします。例えば、芸術系で演劇はあっても音楽がない学校や、外国語の分野で日本語が選択できる場合と独学で進めるSelf-Taught選択になる場合などがあげられます。また、それぞれの科目はSL(Standard Level)とHL(Higher Level)に分けられ、6科目中3つずつ取ることがルールです。もちろん例外として学校にHLが教えられる先生がいなかったり、Self-taughtはSLのみの受講という規定があったりもしますが、基本的にはレベルも自分で選択できます。では6つの科目群を紹介します。

  1. Studies in Language and Literature (母国語)
  2. Language Acquisition (外国語)
  3. Individuals and Societies (社会科学)
  4. Experimental Sciences (自然科学)
  5. Mathematics (数学)
  6. The Arts (芸術)

この中で私が選択したのは、

  1. Self-taught Japanese A SL
  2. English B HL
  3. Psychology HL,  History HL
  4. Environmental Systems SL
  5. Mathematics SL

でした。数学のレベルは最初の試験結果によって先生に振り分けられ、Self-taughtとEnvironmental systemsはSLしか受講できなかったため残りは自動的にHL選択となりました。社会科学系で2科目HLを受講するのは失敗でした。覚える量、こなす量ともにとても多く、専門用語なども出てくることが多いので苦労しました。図書館で歴史のプリントを読んでいるとき、わからない単語をすべてマーカーで引いてみたらむしろ引いてない部分がほとんどなくなってしまったことがあります。通りかかった友人になにをしているのかと不思議そうに尋ねられました。教科書2ページ分をただ読むだけでも1時間以上かかったりしました。授業が始まる10分前に教室前でちゃちゃっと読んでいる同級生を見かけて悔しい思いをしたのを覚えています。

参考までに、私はIBを受け始めたとき英検2級までしか取得していませんでした。TOEFL CBTも150点台と決して英語に関して好成績だったわけではありません。そのせいもあって単語力がまるで足りず、人より数時間多く勉強せざるを得なかったのだと思います。そもそもIBを受けたいと思ったきっかけは父に心理学が勉強できると聞いたからです。日本の生徒より一足先に自分の好きなことが勉強できるということで飛びつきました。実際受講してみて、非常に楽しかったです。ただ、生徒たちのわからない専門用語が出てきたとき、それをスウェーデン語で説明することが時々あったので不利だと感じました。

これだけ周りより英語ができないことを目の当たりにすると焦りと不安にも襲われます。ある日どうしようもなくなった時、授業終了後に生徒が全員退出したのを見計らって先生に相談したことがあります。英語に自信がない。どうしたらすぐみんなに追いつけるかアドバイスがほしいと。今考えると勉強するしかないのですがこの時は必死でこれ以上頑張れないくらいやっているつもりでした。藁にも縋るつもりで先生に相談した時は無意識に頭を下げていました。この時ばかりはやっぱり自分も日本人なのだなと実感しました。この結果、先生はほかの先生に掛け合って追加の授業を受けさせてくださいました。補習です。授業中も私がちゃんとついてこられているか確認してくれるようになり、課題を提出すると添削が丁寧にされていました。おかげで英語の成績は格段に上がり、自信もついて他の授業の成績もついてきました。つまり、わからなかったらちゃんと先生を頼るべきだということです。私の学校では学年の10人程度途中でIBコースを抜けた人がいました。理由は自分にはできないと思ったからというのもあり、諦めてしまいそうになるほど簡単ではないということがわかります。そのことも先生方はわかっているため、相談を受けたら積極的にサポートしてくれます。すべての試験が終わり、卒業式を迎えた日は「君は突然入ってきたにも関わらず最後までやり遂げてとても勇気のある行動をしたと思う」と言われました。

授業を理解するうえでカギになってくるのがCritical Thinkingです。最初は全く理解できず、てこずりましたが1年やっているとだんだんわかってきます。goo辞書によると「物事や情報を無批判に受け入れるのではなく、多様な角度から検討し、論理的・客観的に理解すること。批判的思考法。」という意味ですが、要するに仮説に対して常に間違っているのではないかと疑い、多面的に物事を理解する力のことを言います。IBを卒業した今でもこの力は役立っているように感じます。正直辛いか辛くないかと言われると辛かったです。しかし、考える力を得たというだけでもIBで受けた数々の授業は価値あるものだったと感じます。学生の間のみならず、企業に就職するにしても考えたり生み出したりする力は重要なのではないでしょうか。このような教育が日本にも広がることを願います。