高木チューターのIB生活 ~スウェーデンより~第4回

今回はIB Diploma(IBDP)の勉強とその試験の仕組みについて取り上げます。このコンテンツの続きを見るにはユーザー登録(無料)が必要です。

 IBDPとはそもそも高校卒業認定試験のようなもので、最終試験で一定の点数を獲得できた時点で卒業が決定します。正確にはIB Certificate 又はIB Diplomaが取得できるということです。まずこのCertificate と Diploma の違いですが、多くの大学はDiplomaでしか入学を認めていません。なぜならCertificateはIBの中のいくつかの科目の単位を取得したのであってIBコースのすべてを達成したわけではないからです。具体的に、Diplomaを取得するには選択6科目+TOK+CASが必須条件であるのに対し、Certificateは選択科目のみで取得できます。

 ではそのTOKとCASが何なのか説明させていただきます。TOKはTheory Of Knowledgeの略で、日本の教科にはないタイプの授業です。ディスカッションを通じて知識とは何かなど物事を客観的にみる力を養います。これはIBを乗り切るために必要なCritical Thinking Skills を磨くことにもつながっています。何事にも学習者として興味を持ち、批判的にアプローチすることがTOKを通して学べます。

 私の場合、IB Diplomaを獲得してよかったと思える最大の理由はこの批判的アプローチが日常的にできるようになったことです。なんでもかんでも聞いたことを信じるよりも様々な情報を収集し、自分なりの答えを見つけることは簡単そうで意外と難しかったりします。しかしこれができることによって大学でレポートを書くときやプレゼンテーションを行うときなど、一つのトピックについてより深く掘り下げる力がついていると感じます。

 次に、CASとはCreativity、Activity、Serviceの略です。自身で校外活動を行い、その証拠をファイリングして提出するというものです。例えば、Creativityの分野では楽器を演奏してその写真や録音を提出します。Activityはジムに通い、毎回受付の人にサインしてもらったりレシートを張り付けたりします。そしてServiceはボランティア活動など利益を得ずに誰かの役に立つ行為をすることです。私の場合は日本語を現地の人たちに無料で教えていました。毎度出席してくれた人たちにサインをもらったり、ときどきその様子を写真で撮ったりしました。これらは原則それぞれ週に1回1時間やることが決まっており、正直勉強との両立は簡単とは言えませんでした。ただ、生徒によっては数日間のボランティアに出かけて何時間も活動し、何週間か何もしない人もいました。また、毎月質問が学校に張り出され、それに対してWordで1枚分のレポートを提出しなければなりません。

 以上がTOKとCASのおおまかな説明です。次にIBの試験の話をまとめます。IBの試験は5月初めごろにまとめて行われ、ほとんどすべて小論文形式です。問題冊子が配られ、その中から数問選んで解答するので、わからない問題があってもなるべくよく知っている問題を選んで解答することができます。例えば、心理学は出題形式が決まっているので、ある程度答えの準備ができますし、人によっては丸暗記することもあるそうです。

 日本にはない形式なので最初は戸惑いますが、授業内で解き方を念入りに説明してくれるので心配はいりません。ただし、小論文形式だから自分の意見を書けばいいというものでもありません。もちろん知識は必要で、時には暗記もしなければいけません。問いに対しての答えがわかってもその部分だけ説明するのではなく、例えば、「事実Aと事実Bがあるため答えはCである可能性が高い、しかしこの事実にはDやEなどの弱点があるため一概にそうとは言い切れない…」などといったCritical Thinking が必要とされます。IBでは2年間を通じて物事を多面的にみることに慣れることがすべての授業でよい成績を残すうえでとても重要になります。

 さて、一番大事なのは大学にはどうやって入学するかです。海外の大学の中にはIBの点数+αで入学が許可されることがあります。IB2年生になると自分の希望する大学にネットで一気に願書を提出し、本試験の点数が出た時点で合否がわかる仕組みになっていました。残念ながら日本の大学にはその仕組みがまだ浸透しておらず、IBの点数を参考にしつつ大学の入試で合否を決める場所が多いようです。例えば私の入学した早稲田大学はIBの点数をほとんど参考にしません。高校を卒業したという事実確認のようなものではないかと思います。逆に慶応義塾大学は一次選考で、IBの点数を重視するため、日本での面接や筆記試験よりも、現地の学習にしっかりと力を入れておく必要があります。

 ちなみにIBの最高点は45点で、CambridgeやOxfordなどの有名校を目指すには40点以上が必要とされています。最終試験だけでなく普段の提出物も点数に関わってくるので上を目指すのであれば走り続ける忍耐力が大事です。日本の大学を目指す場合はIB本試験終了後なるべく早く帰国し、日本の入試対策をすることをお勧めします。文系の場合科目は小論文、現代文、英語、面接などで理系の場合はそこに数学や化学なども必要になってきます。私の印象ではIBで勉強してきたことの多くはあまり役には立ちません。小論文を書くにあたって知識量が多いことに越したことはありませんが、専門的な知識は一旦置いておく必要があります。特に日本の勉強をあまりやってこなかった場合は、なるべく多くの現代文問題を解くことをおすすめします。日本語の文章を読むこと、漢字を学ぶこと、日本式の問題に慣れることを重視します。個人的な体験談ですが、環境に恵まれたこともあり日本の入試は楽しかったです。現代文、小論文ともに考えさせられる問いが多く、それらについてディスカッションするのが楽しかったです。もちろん当日は緊張もしました。翌日は全身が筋肉痛になるほどこわばっていました。おそらく楽しめたのはIBで培った考える力があったからこそではないかと今になっては思います。

これらの情報はあくまでも私自身の受験体験をまとめたものなので違う感じ方があったり、違う方法があったりもするかもしれません。参考程度でお願いいたします。