富永チューターの【数式のない算数・数学】ー第3回「オイラーの多面体定理」

富永チューターが中学入試の算数の問題と、数学の世界とのつながりについて書いてくれました。中学入試の問題の奥深さが感じられます。

チューターの富永です。
本日は中学入試問題の算数の問題から、その問題の背景になっている数学の話をしようと思います。
 
次の問題を考えてみましょう。(2016年筑波大学付属駒場中学校第二問 改題)

問題:正m角形の内側にn個の点があるとき、多角形の頂点と内側の点を線分で結び、可能な限り多くの三角形に分割する。ただし、線分はこれらの点以外では交わってはいけない。このとき、いくつの三角形に分割されるか?

例えば正三角形のなかに4つの点があった場合を考えると、これは9個の三角形に分割されます。他にもいろいろ例を考えてみると、答えも予測できるのではないかと思います。
これらの問題をスピーディーに解かなければならない受験生の場合(試験時間、なんと40分です!)、いくつか例を書き出して、そこから“法則”を見つけて回答した生徒がほとんどだったと思います。
 
答えは m+2n-2個です。(当たりましたか?)

簡単になぜか説明すると、内側の点の位置はそれほど関係がないので、内側の点n個で正n角形を作ります。正n角形はn-2個の三角形によって分割されます。また、正n角形の外側、正m角形の内側を適切に三角形に分割してやると、一辺を正m角形と共有している三角形、一辺を正n角形と共有している三角形しかありえず、また一つの辺を共有している三角形がもし二つあればそれらは辺が途中で交わってしまうのでかならず一つの辺につき一つの三角形が対応します。したがって正n角形の外側にある三角形の数はm+n個で、全体ではm+2n-2個の三角形になります。(もし、別の考え方をしたという人は教えてください! いい問題には必ずたくさんの解き方があります!)
 
さて、このように正多角形のなかにいくつか点があり、辺が交わらないように三角形で分割されている図を、どこかで見ませんでしたか?実は、オイラーの多面体定理の証明の途中でこのような図を見ることになります。
オイラーの多面体定理を忘れてしまった人向けに復習します。オイラーの多面体定理とは、多面体において頂点の数をv、辺の数をe、面の数をfと置くと、v-e+f=2になります。大分不思議な定理ですね。証明はどのようなプロセスでなされるか大まかに説明すると、まず多面体を平面に押しつぶします。この際、多面体の点や辺が重なってしまわないよう多面体を適切に変形します。そうすると、多面体の点や辺の数は変わらず、面だけが押しつぶされるので数が一つ減ります。なので、この押しつぶされた図形においてv-e+f=1が示されればいいことになります。その際、この押しつぶされた図形はいくつかの多角形がくっついた形になっているので、適切に線を引いてやれば三角形に分割することができます。この時例えば4角形に対角線を一つ引いて三角形にしたとしても、vは変わらず、eが1増え、fも1増えるので、v-e+fの値は三角形に分割しても変わりません。三角形に分割した後は、外側から三角形を取り外していきます。この場合いくつか取り外されるパターンがありますが、いずれにせよv-e+fの値が変わらないことが示されます。三角形を取り除いていったら、最後には三角形一つになり、三角形一つではv-e+f=1なので、オイラーの多面体定理が正しいことがわかります。(この文章は、以下のリンクを参考にしました。もう少し詳しい説明を見たい人は、以下のリンクを確認してください。http://mathtrain.jp/euler_poly 

つまりこの問題はオイラーの多面体定理の証明の途中にある、三角形への分割から着想を得て、じゃあその三角形の個数を数えさせよう、みたいな問題だったと考えられます。また、オイラーの多面体定理は高校生の数1Aの教科書に載っているようですし、中高一貫の進学校だと中学の幾何の時間に教えられてることも多いので、この問題は“算数”から中学生以降の“数学”の橋渡しとなる問題とも言えるわけです。
このように、中学受験問題には中学以降の算数への橋渡しとなる問題があり、大学受験問題にも大学での数学への橋渡しの問題が見つかることがあります。今回は問題だけを見ても大変いい問題だったように思いますし、橋渡しにもなっている素晴らしい問題でした。このような問題は見つけ次第また記事にしようと思います。
 
オイラーの多面体定理についてもう少し言及しておきます。以前のポアンカレ予想の記事において、オイラー標数という言葉を出しましたが、オイラーの多面体定理はそのオイラー標数の一例になっています。実際、トポロジーという分野の開祖はオイラーだと言われています。彼のアイデアがもとになり、20世紀初頭にポアンカレがトポロジーという分野を切り開き多くの数学者が取り組む分野となりました。その中でオイラーの三角形に分割するというアイデアをそのままに、様々な図形に対して“三角形”分割というものが考えられるようになります。(例えば、ドーナツを“三角形”に分割していきます。このようなアイデアは、単体的複体のホモロジー群へとつながっていきます。)
またオイラーの多面体定理自体を見ても、この等式一つで正多面体というものはいくつかの種類しかありえない、ということが示されます。このことについて詳しい解説を知りたい場合は以下のリンクが参考になります。

http://tambara.ms.u-tokyo.ac.jp/handout2012.pdf